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オンラインカウンセリング「勇者の部屋」の産業カウンセラー勝水のブログです。セクシャルマイノリティ(ゲイ)・身体障害者(HIV陽性者)・精神障害者(双極性障害)の当事者としての目線と、理学療法士・社会福祉士・産業カウンセラーとしての目線で、今まで経験したことや普段考えていることなど、様々な情報発信をしております。

2023年10月27日金曜日

HIV感染症の弊害?!HAND(HIV-associated neurocognitive disorder:HIV関連神経認知障害)

 先日、『HAND(HIV関連神経認知障害)の有病率は3~4人に一人』と言うニュースを目にし、SNSで情報共有したところ、詳しく解説して欲しいとのご要望があり、今回、この様なテーマでお話しを進めていきたいと思います。



まずは基本中の基本。HIVとは?エイズとは?
HIVとは「Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス」のことで正確には『ウィルスの名前』です。時々、メディアで「エイズウィルス」と言う表現をされることがありますが、それは誤りです。医学的に「エイズウィルス」なんていうウィルスは存在しません!!
ではエイズとは「Acquired Immuno-Deficiency Syndrome:後天性免疫不全症候群」の事で、「症候“群”」ですので様々な疾患の集まりです。ただの集まりではなく「HIVが原因で起こる病気の集まり」のことを示しています。

HIVが発見されたのは1983年のアメリカですので、ウィルスそのものが発見されてまだ40年ほどしか経っていません。ですので、HIV感染症やエイズと言う病気には未知の部分があるのは仕方のないことなのですが、徐々にその特徴が明らかになってきているのも事実です。


おおよその事は、皆さんご存知のことと思いますし、あまり詳しいことをココでお話してもこれ以上、読み進めたくなくなると思いますので(笑)割愛しますが、このウィルスが人間の免疫細胞に悪さをする、と言うのは、何となくご理解されていることと思います。


今回、話題に取り上げるのは、このHIVに感染することで合併症として発症すると言われている『HAND(HIV-associated neurocognitive disorder:HIV関連神経認知障害)』についてとりあげます。


実はこのHAND、なぜHIVが神経に関連した症状を引き起こすのか、ハッキリと分かっていないのが現状です。

ただ、東京医科大学病院臨床検査医学科主任教授の木内英氏によると2つの事が考えられると言われています。


①HIVは中枢神経系に侵入することはできませんが、HIVに感染した単球(免疫細胞の1つ)は神経組織に入り込む事ができます。その感染した単球から神経組織内でHIVが放出され、ミクログリアと言う脳の中に常に存在する免疫細胞に感染する。そのミクログリアがHIVを放出し、HIVの成分が神経細胞の一部を直接、傷つけている、と言う説。

②HIVに感染したミクログリアは「ボク!危ないウィルスに感染しました!」と言う信号を細胞の外に色々な化学物質として放出します。その化学物質そのものが神経細胞の一部を傷つける事もあります。また、その化学物質を星細胞と言う細胞が受け取り、その星細胞が更に「やばいよ!やばいよ!」と言って色んな化学物質を出し、神経細胞を過剰に興奮させ死滅させてしまう、と言う説。


先程「エイズは疾患群だよ」とお伝えしましたが、具体的な病名としては上に示す表のとおりで、全部で23疾患あります。その22番めに「HIV脳症」と言うのがありますよね。つまり、HIVに感染することで神経の塊である『脳』に大きなダメージを与えることは以前より分かっていました。

しかし現在、治療方法が改善し、定期的にお薬を服薬したり注射を打つことでHIVを極限にまで減らすことができるようになり、「エイズ」まで至る事なく日常生活を送ることができるようにりました。

ここで重要なのは「極限にまで減らせる」ことができるようになっただけで「消滅させる」事はできない、ということです。いくらお薬を飲んでいても注射を打っていても、わずかながらにHIVは体内に存在し続けると言う事実があります。


HANDはその「微量に残っているHIV」が神経に悪さをすると考えられており、「脳症」と言う大袈裟な病気までは至らないにしても、神経や脳に関連した何らかの障害(神経認知障害)が出てくる、と言われるようになりました。


認知機能というのは、様々な要素が組み合わさって成り立っている人間の脳の機能のことですが、おおよそ上の表な機能に分類されます。高齢者の「認知症」なども「認知機能障害」と呼ばれますが、認知症では特に「記憶」の部分に障害が出ることが多いとされていますが、HANDの場合、多岐にわたって障害がでます。

そこでHANDに関しては、国際的に下の表のような分類をしましょう、と言う決まり事があります。


「2領域で」と言う記載がありますがこの「領域」というのは、先程お見せした表の「言語」「注意・作業記憶」「遂行機能」「学習」「記憶」「情報処理速度」「運動技能」「視空間構成」この8領域のうちの「2領域」と言う意味です。


この様にHANDと言う認知障害がありそうだぞ、と言うのは以前から言われていました。しかしボクも疑問に思っていたのですが、もともとうつ病を持病として持っていたり、またHIV感染症となることでうつ病を発症したり、違法薬物を使用することで脳の機能が低下したり、もちろん加齢に伴う認知機能の低下もあったりと、果たして本当に「HIVが原因で認知機能に障害が起こるのだろうか?」と言うのが正直な気持ちでした。

そこで前述の木内英氏らは、日本におけるHANDの有病率と関連因子について多施設前向き横断研究(J-HAND研究)を行ったそうです。2014年7月から2016年7月までデータを収集し、728人のHIV陽性者からデータを集めたところ…

ANI(無症候性神経認知障害)が98例(13.5%)、MND(軽度神経認知障害)が77例(10.6%)、HAD(HIV関連認知症)が9例(1.2%)だったそうです。全てを合わせると、全HIV陽性者のうちの約25%がHANDに当たる、との結果でした。


ここで、数字のトリックに惑わされてはいけません。
ANIは「無症候性であり日常生活に支障がない」と言うレベルです。その人達の割合が13.5%です。そしてMNDは「軽度神経認知障害であり日常生活に軽度の支障あり」が10.6%です。「日常生活に明らかな障害がある一番重度」のHADが1.2%です。

もう一度繰り返します。
日常生活に明らかな障害があるHADは1.2%です。

確かに“HAND”と言うくくりでみたら約25%ですので4人に一人の割合です。とても高い割合に見えますが、日常生活に大きな障がいがあるとされるレベルでは1.2%なんです。


そして、一番重要なのは、ART(多剤併用療法・抗レトロウィルス療法)を行っているかどうか(治療を失敗せずに継続できているかどうか)とHANDの関係性です。その結果、ART未実施の場合、MNDおよびHADの有病率が優位に高かったと報告しています。

つまり、ARTを行ってウィルス量が十分に抑えられている場合とそうでない場合では、重度の認知障害があると言っています。


HIVがどの様に神経に悪さをするのかは分かってはいなけれども、ARTでウィルスを極限まで抑え込んでいれば、神経に悪さをする可能性は極めて低い、と言っており、結局はHIVが神経に悪さをしている「可能性が高い」という結果になります。


HANDに限らないことではありますが、HIV感染症/AIDSと言う病気は、防ぐことが可能な病気です。そして、ご自身の健康状態を知り(HIVステータス:HIVに感染しているか否か)、感染している事がわかった段階で早めに治療・投薬を開始すれば、長く健康でいられます。

冒頭にも書きましたが、HIVが発見されてまだ40年ほどしか経過していませんが、この分野の研究というのは非常に速いスピードで発展しています。もちろん、まだまだ未知の部分が多い病気ではありますが、むやみに恐れる必用のない病気と言っても過言ではないでしょう。



もう一度言います。

むやみに恐れる病気ではない、と言っても過言ではないでしょう。

2 件のコメント:

  1. 恐れる必要は何もない
    生活に影響があってもなくてもです
    でも問題は影響ではなく実態です
    無症候性も立派な認知障害です

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    返信
    1. ご意見ありがとうございます。
      全くそのとおりだと思います。ANIは「無症候性で日常生活に支障のないレベル」ですが認知障害ですので、対処は必用だと思います。その対処こそが木内英氏が述べているように「適切にARTを継続すること」だと思います。一番怖いのは、HIVに感染しているにも関わらずHIVステータスを知らない、または治療を放棄したり未治療のまま放置する事でHADに至ってしまう、と言うことです。

      削除

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