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オンラインカウンセリング「勇者の部屋」の産業カウンセラー勝水のブログです。セクシャルマイノリティ(ゲイ)・身体障害者(HIV陽性者)・精神障害者(双極症)の当事者としての目線と、理学療法士・社会福祉士・産業カウンセラーとしての目線で、今まで経験したことや普段考えていることなど、様々な情報発信をしております。

2025年1月30日木曜日

「人生会議」で自分らしい最期を迎える~アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは

先日ボクは、沖縄HIV臨床カンファレンスが主催する『第15回沖縄HIV臨床カンファレンス第2部』にオンラインで参加しました。その研修会では、看護師・ソーシャルワーカーの方から、ご自身が関わられたHIV陽性者のACP(Advance Care Planning:アドバンス・ケア・プランニング)に関する報告でした。

ACPの詳細については後ほどご紹介しますが、ボクも50歳になり自分自身の『死』を意識するようになったとともに、母が80歳を超え、否が応でも母の『死』を考える機会が増えました。

幸い、ボクも母も、持病はあるものの、ある意味健康で(笑)早急に『死』を迎える予定はないのですが(笑)なにかの拍子に、自分の意思を伝えられなくなる可能性もあり、それを考慮する必要があと思っています。そこで重要となるのが、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)、愛称「人生会議」なのです。

1.ACP(人生会議)とは?

ACPとは、将来の医療やケアについて、患者さん自身が主体となり、ご家族や近しい人、医療・ケアチームと繰り返し話し合い、意思決定を支援するプロセスのことです。「人生会議」という愛称は、より多くの人にこの取り組みを知ってもらうために、厚生労働省が決定しました。

ACPは、単に『延命治療を”する”か”しない”か』といった二者択一の選択ではなく、患者さんの価値観・人生観・目標・希望に沿った医療やケアを具体化することを目的としています。また、ACPは一度きりの話し合いではなく、状況や気持ちの変化に応じて、繰り返し行うことが推奨されています。

2.ACPがなぜ重要なのか?

①終末期には、約7割の患者さんが意思決定能力を失うと言われています。”もしもの時”に備えて、事前に自分の希望を伝えておくことで、後悔のない医療やケアを受けることができます。

②ACPは、患者さん自身の価値観や希望を尊重し、その意向を医療に反映させるためのプロセスです。患者さんが主体的に医療やケアを選択することで、自己コントロール感が高まり、満足度も向上します。

③患者さんの意思が不明確な場合、家族は大きな不安と負担を抱えながら、医療やケアの方針を決定しなければなりません。事前にACPで話し合っておくことで、家族は患者さんの意思を尊重した意思決定ができるため、心理的な負担を軽減できます。

④ACPを通して、患者さんは医療者と自身の価値観や希望を共有し、より良いコミュニケーションをとることができます。これにより、医療者との信頼関係が構築され、より質の高い医療やケアが提供されることが期待できます。

3.ACPと事前指示書との違い

蘇生処置に関する事前指示書※は、将来の医療に関する患者さんの意向を文書で示したものです。これに対し、ACPは、文書だけでなく、話し合いのプロセス自体を重視します。ACPでは、医療者や家族と繰り返し話し合うことで、患者さんの意向をより深く理解し、より良い医療やケアにつなげることが目標です。

※具体的には心肺蘇生措置(CPR)・気道確保や人工呼吸・119番通報・主治医への連絡などが含まれます。

4.ACPで話し合う内容

ACPで話し合う内容は多岐にわたりますが、主に以下の点が挙げられます:

①大切にしていること(価値観)
○どのような時に幸せを感じるか
○人生で大切にしていることは何か
○どのような生き方をしたいか

②気がかりなこと
○病気や治療に対する不安
○家族への心配
○経済的な不安

③治療やケアの希望
○延命治療に対する希望
○痛みの緩和に対する希望
○療養場所の希望(自宅、病院、施設など)
○どのような最期を迎えたいか

④病状や予後の理解
○現在の病状や今後の見通しについて
○どのような医療やケアが受けられるのか
○どのようなリスクや副作用があるのか

⑤誰に意思決定を託したいか
○意思決定能力が低下した場合に、自分の代わりに意思決定をしてくれる人は誰か
○その人に、自分の価値観や希望をどのように伝えたいか

5.ACPはいつ、誰と行う?

ACPは、健康な人から病気を抱えている人まで、全ての人が対象となります。特に、以下のような場合には、ACPを始めることがお勧めです。

○重い病気と診断された時
○慢性的な疾患がある時
○年齢を重ねて、将来に不安を感じ始めた時

ACPは、患者さん本人が主体となり、ご家族や近しい人、医療・ケアチームなど、信頼できる人たちと一緒に行います。

6.ACPをどのように進める?

①話し合いの準備
○自分の価値観や希望を整理する
○家族や医療者に伝えたいことを書き出してみる
○ACPに関する資料や情報を集める

②話し合いの実施
○医療者や家族に、自分の価値観や希望を伝える
○病状や治療に関する情報を共有する
○お互いの考えを尊重しながら、納得できる結論を見つける

③話し合いの結果を記録する
○話し合った内容を文書に記録する
○記録した内容を関係者で共有する

④定期的な見直し
○状況や気持ちの変化に応じて、話し合いの内容を見直す

7.ACPを支援する専門職

ACPは、医師だけでなく、看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師、カウンセラーなど、多くの専門職が関わって支援します。

○医師: 病状や治療に関する情報提供、医学的なアドバイス
○看護師: 患者さんの気持ちに寄り添い、生活状況やニーズを把握
○医療ソーシャルワーカー: 社会資源や制度に関する情報提供、経済的な相談
○薬剤師: 服薬に関する情報提供、副作用への対応
○カウンセラー: 患者さんの心理的なサポート、不安や悩みの相談

8.ACPの課題と今後の展望

ACPは、患者さんにとって多くのメリットがありますが、一方で課題もあります。

①文化的な背景
日本人は、自己主張を避け、家族との調和を重んじる傾向があるため、ACPの話し合いをためらう場合があります。

②医療者の知識・経験不足
ACPの重要性は認識されているものの、具体的な実践方法が十分に周知されていない現状があります。

③医療資源の不足
ACPの実施には、時間や人員が必要となるため、医療現場での実施が難しい場合があります。

これらの課題を克服するため、以下のような取り組みが重要です

①ACPに関する教育・研修の充実
②地域でのACP普及活動の推進
③多職種連携によるACP支援体制の構築

9.「人生会議」を始めるためのヒント

①まずは、自分の気持ちを整理してみましょう
○何が大切なのか、どんな生き方をしたいのか
○どんな時に幸せを感じるのか、不安に感じるのか
○誰と一緒にいたいのか、どんな最期を迎えたいのか

②信頼できる人と話し合ってみましょう
○家族や友人、かかりつけ医、医療関係者など
○話し合いを通して、自分の気持ちや希望を共有する

③「人生会議」を特別なことと思わない
○日常的な会話の中で、少しずつ話し合ってみる
○節目となる機会(誕生日、結婚記念日など)を利用してみる
○最初は軽い気持ちで、気軽に始めてみる

おわりに

ボク、先日の研修会に参加して、このブログ記事を書きながら思ってたんです。例えば「家族」と言う存在「パートナー」と言う存在がいる方は、まだ良いかもしれない。普段から生活を共にしているということは、その人の考えていることや価値観などを、当たり前のように肌身で感じることができるから(もちろん必ずしも、と言うわけではないです)。むしろいわゆる「お一人様」の場合が大変だと。

地域の活動にも参加しない、頼りにできる友人もいない、慢性疾患をもっているから医療機関には定期的に受診するけど、じゃあ、その医療機関でACPについて話せるかどうかと言ったら、それは無理。

生活保護を受けている方なら役所の保護担当者、介護を受けている方ならケアマネ、障害者福祉を受けている方なら相談支援専門員など、ある程度、生活に関して相談できる職種はあるけれど、じゃあACPを行えるほど、その方々と深く関わり合えるかどうかと言ったら、それは『否』と言わざるを得ないと思います。

なぜなら、それは、それらの職種の方々が「ACPをしなければいけない業務ではない」から。法律的な問題もありますしもちろん知識的な問題もあります。

また、『8.ACPの課題と今後の展望』でもお伝えしました通り、日本独特の文化的背景もあると思います。生きているうちに、元気なうちに「死について語る」と言うことをタブー視したり、縁起の悪いこととして毛嫌いしたり。また、家族間であれば「気恥ずかしさ」もあるでしょうし、愛するパートナーの「死について考えたくない」と言う思いもあるかもしれません。

けれど、ご本人様もその関係者様(家族やパートナーだけでなく、医療やケアをする人々)も、後悔しないために、とても大切な「人生における大きな課題」だと思っています。

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