医療従事者やボランティアで活動されている方が陥りやすい心理的状態で『燃え尽き症候群(burnout syndrome)』という名前は、みなさんも一度はどこかで聞いたことがあると思います。今回、取り上げる『錆び付き症候群(rusteout syndrome)』というのは、一見、燃え尽き症候群と同じ状な状況ではあるものの、心理的にはもっと違った問題をはらんでいると言われています。
燃え尽き症候群とは…
それまで意欲を持ってひとつのことに没頭していた人が、あたかも燃え尽きたかのように意欲をなくし、社会的に適応できなくなってしまう状態のことをいいます。
今まででも、自分自身を「あの時は燃え尽き症候群だったかも…」と公言する有名人はたくさんおり、賀来賢人さん、星野源さん、小栗旬さん、山田裕貴さん、窪田正孝さん、そして宇宙飛行士の野口聡一さんもそうであったとのことです。
イメージとしては、「やりたい!」と思っていたことを思いっきりできて、それが自他ともに認めるほどの功績を残し「やり遂げたあとの無力感」とでも言いましょうか、風船が一気に破裂した感じ、とでも言いましょうか。
燃え尽き症候群も、放っておくと良いものでは有りません。慢性的なフラストレーションや自己嫌悪感、最終的には無気力感に襲われてしまいます。
今回の話題は、この『燃え尽き症候群』と似ているけれども、その心理的状態に違う状態を示す『錆び付き症候群』について掘り下げていきます。
実はこの『錆び付き症候群』というのは、1970年代頃に言われ始めていたことではあるのですが、近年、仕事におけるキャリア・アップを考える時に、注意しなければいけないこととして取り上げられるようになりました。
錆び付き症候群とは…
日々の業務ややらなければならないことに忙殺されて、やりがいや充足感が欠如しており、“本当に目的が欠如している感覚”の事を言います。
キャリア・アップチェンジ(スカウトなどで引き抜かれたり、自分自身のキャリア・アップのために転職し、その先でそれまでの職位より良い職位になったり給与がアップした時)の際、自分自身が思っていた仕事の内容と違っていたり、自分自身の理想と思っていた職場環境ではなかったりした時、仕事量やその責任は増えたにも関わらず、退屈と感じてしまったりヤル気が起こらなかったりする事があります。
これって実は、ゆっくりとその人を腐食していき、実は自分自身が気づかないうちに「錆びついて」行くわけです。
『燃え尽き症候群』とは違い、ジワリジワリと侵食していくという意味で『錆び付き症候群』というわけです。
燃え尽き症候群とともに錆び付き症候群にもキチンと対処していけるかどうかという、『心理的レジデンス』にも挙げられるようになっています。
心理的レジデンスとは…
「脆弱性(vulnerability)」の反対の概念で、自発的治癒力の意味としても使われていますが、その人自身の不利な状況に自身のライフタスクを対応させる個人の能力と定義されています。
環境が変わらないのであれば自分が変わる・変われる、そんな概念と思っていただければと思います。
仕事をしていく上において、錆びついていかないようにするためには、2つの方法があると僕は考えます。
一つは上記に示した通り心理的レジデンスを高め、その環境に合わせて自分自身を変えていくこと。
もう一つは、退職・転職すること。
正直、後者の方が楽ですよね。ある意味。特に資格職であれば、尚更です。少し、乱暴な言い方をすれば「自分の能力が低いからではなくて、その職場環境が悪いから」という理由を盾にしてしまえば良いわけですから。僕も、そういう人達を何人も見てきました。
これは僕の肌感覚であってちゃんとした統計を取っているわけではないので、根拠はないのですが、こういう考え方をする人って、医療従事者、特にコメディカルスタッフに多いような気がします。もちろんそんな人ばかりではないですよ。
ただ、そういう対処法をする人というのは、そういう対処法でしか対処できなくなり、言葉は悪いのですが“逃げ癖”がついてしまいます。人としてというか、職業人として生活していく上で、果たしてそれは、どうなのでしょうか?
良い悪いの判断ではないかも知れませんし、善悪の判断でもありません。どの方法をとるのかは、その人の人生哲学であったり生活環境であったり、社会的背景であったり生育歴であったり、そういうものに左右されることだと思うので、個々人の価値観だと思います。
ただ、『真の意味でのキャリア・アップ』を望むのであれば、『錆び付き症候群』ともしっかりと向き合う必要があるのではないか、と僕は思います。
僕が臨床で実習生を受け持っていた時、実習生さんによく「どんなところに就職したいの?」と聞くのがルーティンでして、そこから話題を広げることが多かったのですが、よく実習生さんから言われたのは「勉強ができるところ」という答えです。言い方を変えると、その答えの裏には「勉強を教えてくれるところ」「勉強をさせてくれるところ」という意味合いが強いように感じていました。
ですので僕はよく「勉強は自分ですることであって、しようと思えばどんな環境でだって勉強はできるんだよ」と諭していました(ウザいバイザーと思われてたと思います)。
Teena J Clouston氏は『この錆付き症候群』を回避するために必要なこととして以下の3つを挙げています。
①自分の価値を見つめ直す
自分にとって意味のあることは何かを見直して、そのための時間を作ることをする。そのために日々のルーティンを変えるなどの方法をとる。。
②どんな事に満たされるのかを見極める
たいていの人は、自分が満たされていると思う方向に導くコンパスを持っている。そのコンパスに従って行動する。しかし「自分が満たされていると思う方向」というのは流動的で変化するものであるため、それを敏感に感じ取る必要がある。
③“積み荷”のバランスをとる
自分自身を「船」と思い、そこにどんな荷物をどれくらい積むのかをよく検討する事。
つまり、「内観すること」が大切と言っています。
また、ある方はこのように言っています。
「自分の能力を錆びつかせないようにするには、自分自身を磨くしかありません。職場ではやりがいがないのなら、それ以外の場所で自己研鑽することも一つの方法です」
とし、例えば、資格に挑戦する、語学の勉強をする、ボランティア活動をするなどです。
僕は、この方のアドバイスにはもう一つの側面があると思っています。
それは、職場以外での自己研鑽が、実はその後の仕事に活かされる事が往々にしてある、ということです。そして究極の自己研鑽は『生涯学習』です。
ここからは僕の『ちょー持論』なので、ご承知おきを(笑)
『自己研鑽』『生涯学習』というと、「ステップアップ」というニュアンスが強くて、「一つの物事を追求する」という意味合いに取られる事も多いと思います。しかし、僕は違うな~と思っています。
究極の『生涯学習』とは「見聞を広げること」だと思っています。
常にアンテナを張って、色々な事にたいして情報収集し、多様な価値観や倫理観を知り、それを自己の中に取り入れながら「自分」というものをブラッシュアップしていく、そんなイメージだと僕は思っています。
僕はそれを実践し続けている人としてご紹介したいのは『若宮正子』さんです。
「世界最高齢プログラマー」として最近、メディアに出られる機会も増えていますので、ご存知の方も多いと思います。
詳しくは割愛させていただきますが、僕は彼女のような生き方に憧れを抱きます。
僕はHIV感染症という病気を持っていて、平均余命まで生きられるとは言われていますが、果たしてそれが本当なのかどうかは、まだ未知の領域です。AIDSの報告が世界で初めてなされたのが1981年のアメリカからです。まだ40年ちょっとしか経っていません。
ですので、僕自身、何歳ごろにどんな病にかかり、どんな死に方をするのか分かりません(まあ、それは皆さん同じですが(笑))。だからというわけではないのですが、尚更、錆びついていく事は、僕の「信条・信念」ではありません。
自分自身がどう生きていくのかは自分が決めること。誰かが決めてくれることではありません。
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