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オンラインカウンセリング「勇者の部屋」の産業カウンセラー勝水のブログです。セクシャルマイノリティ(ゲイ)・身体障害者(HIV陽性者)・精神障害者(双極症)の当事者としての目線と、理学療法士・社会福祉士・産業カウンセラーとしての目線で、今まで経験したことや普段考えていることなど、様々な情報発信をしております。

2023年9月22日金曜日

実は慢性疼痛との関連も…破局的思考とリハビリ

 精神心理状態が、人間の「感覚」に大きく影響を及ぼすと言うのは、医学の世界では当たり前のことですが、少し詳しくお伝えできたら、と思います。



人間の感覚、特に皮膚などから感じる感覚は「触覚・温冷覚・痛覚」と言うものがあります。「触覚」というのは、皮膚に触れているか、どの程度の強さで触れているかなどを感じる感覚です。「温冷覚」というのは、熱い・冷たい、「痛覚」は痛いなどの感覚です。皮膚には、それらの感覚を感じ取るための器官『受容体』と言うものが存在していています。




触覚:メルケル盤・マイスナー小体
圧覚:パチニ小体
痛覚:自由神経終末
温覚:ルフィーニ小体
冷覚:クラウゼ小体

これらの受容体が刺激されて、神経によって脊髄→視床を経由して大脳新皮質の第一体性感覚野に到達し、さらに高次な脳の領域に伝わります。そこでやっと、触覚なら「触った」痛覚なら「痛い」温覚なら「温かい」と認識します。これを「知覚」といい、その知覚を処理しどのように次へ繋げていくか、これを『感覚認知』と言います。


少し難しい話になりますので、もう少し簡単に説明しますね。
皮膚にある、それぞれの受容体が刺激されただけでは、人間は「感じる」事ができません。その受容体から脳に伝わる神経、そして脳が正常に機能して「感じる」事ができます。しかし、厄介なことがあります。例えば「10」と言う程度の刺激が受容体を刺激して神経を通り、脳で感じる時、必ずしも「10」と言う程度で感じるとは限らないのです。

人によってその程度は「9」だったり「3」だったり時には「15」だったりします。また、刺激の強さだけでなく「サワサワ」と感じるのか「ジワジワ」と感じるのか「ビリビリ」と感じるのか、感じ方にも個人差があります。

皮膚感覚には「刺激の程度」と「刺激の質」によって表されるのですが、これらに個人差があるのは、その時のその人の精神心理状態に大きく左右されることが知られていて、精神心理状態に左右されるということは、大きく捉えるとその人の生育歴や家族歴、人間関係や価値観、倫理観や哲学など複雑に影響を及ぼされているんです。



さて、一方、『破局的思考』とは何か。
ひとことで言えば「よくある状況から最悪の状況を想像し、それをバカげた発想として片付けずにくよくよと考えて、話を大きくしてしまうこと。」と説明されます。英語では〝pain catastrophizing〟と表記されます。


「悲観主義(pessimism)」と比較するとよく分かります。

悲観主義:うちの猫は他の猫に比べて活発ではない。まあいつものことだけど。
破局的思考:うちの猫は他の猫に比べて活発ではない。もうすぐ死んでしまうから!!

悲観主義:今日、上司は言葉数が少ない。私がなにか失敗をしたから?
破局的思考:今日、上司は言葉数が少ない。きっともうすぐ私をクビにすると伝えに来るから!!

悲観主義:水道の蛇口が閉まらなくて水が漏れてる。業者よんで修理しないと…ついてないな~
破局的思考:水道の蛇口が閉まらなくて水が漏れてる。どんどん止まらなくなって家中水浸しになっちゃう!下の階の人に迷惑かけて管理人から部屋を追い出されてしまう!!


この様に考えてしまうのは、その人の「考え方の癖」です。この「考え方の癖」というのは、その人の長年培ってきた経験や生育歴などが大きな影響を及ぼすとともに、その時の精神心理状態からも影響を受けます。しかも破局的思考というのは「そんな考えは馬鹿げている」と何となく自分でも分かってはいるんだけど、それが止められない。そこが「病的」な部分でもあると言えます。

この様な破局的思考というのは、抑うつ感や不安障害の原因になっていることが多いと言うことは、容易に想像がつくと思います。同じ事象に対して、破局的思考をする人とそうでない人では、認知の仕方が違うため、それを「ストレス」として受け止めるかそうでないかの差が生まれてしまい、メンタルダウンするかどうかにも深く関わってきます。


一方で、痛み、特に慢性疼痛と破局的思考に関連性があるのは、臨床で患者様を診ていると何となく理解できるのですが、ハッキリと論文的な裏付けがあると言われだしたのは2000年に入ってからです。

痛みというものは誰にとっても不快なものですよね。だから、痛みが出るような動作・行動・行為というのは自然と避けるようにインプットされています。そして、持続的に痛みを感じてしまう「慢性疼痛」では、常に痛みを感じてしまうために、その人はどんどん、抑うつ的になったり悲観的になっていったりします。

そこで悪循環が生まれます。



痛みというのは、確かに身体の異常を知らせるアラートの役割を果たしていることは事実です。しかし、「見逃してはいけない痛み」と「それほど重要でない痛み」と言うものがあり、それは痛みの程度であったり痛みの種類(ズキズキ・ズンズン・チクチク・シクシクなどと表されます)であったり、そういうもので鑑別できます。

例えば、ストレッチ。ピーンと筋肉が伸ばされると痛いですよね。また、凝りを感じている部分を指で圧迫したりすると痛みを感じます。人によっては「痛気持ちい」と表現されますが、そのような「痛み」というのは「それほど重要でない痛み」です。

もともと破局的思考をするような人だと、そのような「それほど重要でない痛み」ですら「見逃してはいけない痛み」として認識してしまい、その痛みを常に意識し避けるようになるため、例えば筋力が落ちたり関節がより硬くなったりして、どんどん身体機能が落ちていきます。身体機能が落ちていくと、今まで出来ていたことができなくなり、悲観的になったり自己肯定感が下がったりして抑うつ感を生んでしまう。そしてどんどん痛みに敏感に反応するようになり、生活そのものが「痛み」中心に振り回されるようになる…

ここまで来ると「完成された悪循環」に陥り、その負のループからなかなか抜け出せなくなり、身体的にも精神心理的にも病んでしまいます。


何度も言いますが、これはもともとの「考え方の癖」であったり物事をどの様に捉えるのかという「認知のゆがみ」であったりするわけです。ですので、そこを修正していけば良いのですが、これがなかなか大変。

近年、うつ病などの治療に効果があると言われている「認知行動療法」と言うものがあります。これは、前述した「認知のゆがみ」を修正していき、目の前に起こった事象に対して、自分自身にストレスとならない受け止め方(認知)をする治療法です。治療なのですが僕なりに言うと「トレーニング」です。

とっさ的に起こる事象に対して「これは こうだから こういうふうに とらえて こう かんじれば よい」なんて、瞬時に判断なんか出来ませんよね(笑)それを瞬時に判断できるようになるためには、繰り返し繰り返し、何度も何度もトレーニングする必要があるんです。できればそれは自分自身の頭の中だけで処理するのではなく、同じ様な立場の仲間であったり心理カウンセラーであったり、自分以外の人からのフィードバックをもらうことで、より強固になっていきます。


クララが立った!!ってクララは何の病気だったの?」でもお伝えしましたが、運動機能と精神心理状態とは、かなり密接な関わりを持っています。リハビリセラピストは、目の前に起こっている患者様の異常に対し、どうしても身体機能ばかりに目がいきがちです。もちろんその異常に敏感に感じ取る必要もありますが、何か違和感を覚えるようであれば、やはり患者様の精神心理状態にもきちんと向き合い、そして面倒くさがらずに正しく対処していくことを身に着けて頂きたいと思っています。


そのためには「完成された悪循環」「負のループ」に陥る前、できるだけ早期にその兆候を察知して対処する必要があるので、患者様とかかわる時に、「破局的思考になりやすい性格か」「過去のライフイベントに対してどの様に対処してきたか」「食欲や睡眠状態」「抑うつ的になりやすいか」などを把握しておくと、良いかも知れません。

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