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オンラインカウンセリング「勇者の部屋」の産業カウンセラー勝水のブログです。セクシャルマイノリティ(ゲイ)・身体障害者(HIV陽性者)・精神障害者(双極性障害)の当事者としての目線と、理学療法士・社会福祉士・産業カウンセラーとしての目線で、今まで経験したことや普段考えていることなど、様々な情報発信をしております。

2023年9月4日月曜日

ヒトは生まれたときから一人では生きられない…生理的早産

 タイトルを見て「何、当たり前のことを言っているの?」と思われるかもしれない。しかしこれは、他の生物とは明らかに違う、ヒトであるからこその特徴でもあるのだ。



ヒトは生まれた時、一人では何も出来ない。
生まれたての乳児から子育てを経験している方なら、納得していただけると思うのだが、生まれてからしばらくの間、ヒトは泣くことでしか意思表現が出来ない。摂食や飲水(母乳を飲む)なども促されないとできず、目もほとんど見えず、耳はわずかに聞こえる程度、四つ這いはもとより立って歩くこともできない。

よく、四足動物などの出産シーンで、母体からこの世に生み出された小さな命は、出産直後から自ら立って歩こうとし、母の乳を飲みに行こうとする。


ここに面白いデータがある。



ウマ、サル、チンパンジー、イヌ、ヒトの平均寿命・妊娠期間と歩けるようになる時期についてのデータである。注目していただきたいのは「寿命と妊娠期間の割合」と「歩けるようになる時期」との関連性である。寿命に対する妊娠期間の長いウマは誕生してすぐに歩けるようになるが、寿命に対する妊娠期間の短いヒトでは、誕生してから歩けるようになるまでの期間が長いのが分かる(ここでは二足歩行か四足歩行かは別として)。

アドルフ・ポルトマンは、鳥類や哺乳類の生態を比較して整理することを行い、誕生時点から自立して行動できるかどうかという点や、寿命と妊娠期間を整理して比較した。ヒトの赤ちゃんは自立して行動できないうちに誕生しているという特徴があり、誕生するまでの期間(妊娠期間)が約10ヵ月程度なのは短く、ほかの哺乳類に比べて自立度が低いうちに生まれてくる特徴があると主張した。

これを「生理的早産」と名付けた。

なぜ、このような現象がおこっているのか。様々な仮説がある中で一般的に言われていることは、生物の進化の過程でヒトが獲得した二足歩行に関係しているという。

二足歩行になったため骨盤が小さくなり、母体内で成長しすぎると子宮口から出られなくなるため、特に頭部が発達する前に母体から「追い出される」というのだ。

その証拠に、上の図のように新生児の頭蓋骨というのは縦横に亀裂が入っており、胎児にとって一番大きな身体のパーツである頭蓋骨が子宮口を通る時に、少しでも通りやすいようにと、多少、形が変わっても大丈夫なように完全にくっついていない状態で、生まれてくる。
そして、誕生時点では400g程度の重さしかない脳も、1年後には約1kg程度まで急速に成長していく。もし、頭部が完全に成長するまで母体の中で過ごしていたら、おそらく子宮口から出られなくなているのである。

そして、出生して1年後には二足で歩き、簡単な言葉も話せるようになり、言い換えればヒトは、出生後1年かけてやっと『生物としてのヒト』となるのであるが、この1年というのは、乳児にとって見れば親から何かをしてもらう事しかできない。つまり「受け身の期間」とも言いかえられる。

人間以外の生き物は、生まれてすぐ「生きるため」に自ら立ち上がり、視覚や聴覚を駆使して母親の乳を求めて、自ら動く。しかし、人間はそれが出来ないと言うのは、「生き物」として致命的である。親がいなければ生きていけない、なんともか弱い存在なのだ。

しかし、そんな人間だからこそ、「受け身の期間」を乗り切り、生物として生きていく事と人間らしく生きていく事の両方を獲得していく。実は、他の生物にはない特徴があるのだ。

代表的なのは「白目の存在」。

実は、白目があることは「生き物」としてはとても不利なのである。何故か。それは自分を襲ってくる相手に、次の行動を予測されてしまう可能性があるからなのである。多くの生き物は、一見して黒目しかないように見えるが、実は白目も存在している。しかしそれは外見上わからなくなっており、どこを注視しているのかは非常に分かりづらくなっている。

しかし人間には白目がある。
先程から述べている「受け身の期間」、そばにいる人へ視線を送り「あなたを見ていますよ」とメッセージを出している。それを受け取った大人も視線を投げ返す。または微笑みかける。

エリク・ホーンブルガー・エリクソンは、「心理社会的発達課題」と言う理論の中で、乳児期の心理的課題を「基本的信頼 vs. 不信」としている。つまり、ほぼ全ての事を親に頼らなければならない「受け身の期間」である乳児期には親に頼るしかなく、そこには親を信頼しなければ生きていけない、と言う心理がある。「白目」のたとえの如く、乳児も生きるために親にメッセージを送り、それを受け取った親もメッセージを返す。コミュニケーションの原型がここにあり、それを繰り返していくうちに、乳児と親の信頼関係が生まれていくのだ。もちろん、泣くこともその一つだ。



おそらく人間は、地球上で最も弱い生物なのかも知れない。
しかし、このように大きく繁殖しているということは、地球上で最も強い生物とも言いかえられる。それは、知恵や知識、理性などを持ち、社会性を持って各々が協力しあって生きているからである。

昔読んだマンガ「寄生獣」にでてくる、パラサイト「田村玲子」の言葉にこんな言葉がある。「人間と我々が大きく違う点・・・それは人間が何十、何百、何万、何十万と集まって一つの生き物だと言うこと。人間は自分の頭以外にもう一つの巨大な「脳」を持っている。それに逆らったとき、寄生生物は敗北するわ。」

この言葉は非常に、人間の社会性というものを言い当てていると思っている。

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