前回のblog「クララが立った!!ってクララは何の病気なの?その1」からの続き…
前回は、「アルプスの少女ハイジ」のクララは「ビタミンD欠乏性くる病」の可能性が高い、と言うお話を、スイスの時代背景と共にお伝えしました。
クララは3歳頃から歩けなくなりハイジと出会ったのは12歳の頃だそーです。ってことは約10年弱、歩いていなかったことになりますね。そしてクララがアルプスに過ごすようになって3年の月日が経ち、あの「クララが立った!!」になるわけです。
19世紀のお話なので、もちろん医療も現在のように十分でなかったでしょう。もちろん医学的リハビリテーションなどの概念もなく、それらを提供する人もいなかったと推察されます。10年間、車椅子生活を送っていたクララ。その脚はどうなっていたでしょうか。特別な何かをしていない限り、関節は拘縮と言って固くなり筋肉はやせ細り、骨はくる病の影響と脚に体重をかけない期間が長くなっていたため、なおさら弱く脆くなっていたと思います。人間の骨というのは、適度に力が加わることでその部分の強度が増す事が知られていて、脚の様に長い骨と言うのは、長軸方向に重力が加わることでドンドン、強度が増します。
何度も繰り返しますが、10年間歩くこともせず医学的リハビリテーションも受けずいた人間の脚と言うのは、骨の弱さや筋肉の萎縮はもちろん、一番の難題は関節拘縮(関節が固くなって動かなくなること)のはずなんです。関節が固くなると、自分で関節を曲げ伸ばししようにもできない、そして他人が動かそうとしても動かせない、そんな状態になるのが一般的なのです。
皆さんの中にも手足を骨折してギプスを数週間巻いた経験のある方は分かると思うのですが、ギプスという固定を外して関節を動かそうとしても力が入らないのはもちろん、怪我をする前より関節が動かせる範囲が狭くなっていることに気付くかと思います。
たった1~2ヶ月でもそんな状態になるのに、10年もほとんど動かさないとなると、不可逆的(もうもとには戻らないということ)な関節拘縮に出来上がってしまいます。
「アルプスの少女ハイジ」の物語では、クララがアルムおんじの元(ハイジの住むアルプス)に来た当初は、もちろん車椅子でした。しかしハイジは、クララが立てるように、歩けるように「手を貸しながら立つことを手伝った」ようです。それを3年間続けた結果、何故か「クララのバカ…」から始まり
「クララが立った!!」になったとのことです。
しかし、医学的リハビリテーションの観点から言わせていただくと、「立てないから立つ練習をするだけ」「歩けないから歩く練習をするだけ」では、その練習はおおよそ失敗に終わります。どんなに励ましや自身の努力があったとしても、です。
大事なのは「何故立てないのか」「何故歩けないのか」の評価(分析)が必要で、その分析の結果「〇〇と言う関節が固くて動かないから」とか「〇〇と言う筋肉が弱くなっているから」とか「神経の伝わりが悪いから」とか原因を探りそれに対して直接アプローチすることで、結果として「立てるようになる」「歩けるようになる」のです。
ここで僕なりの見解を加えます。
もともとクララは「ビタミンD欠乏性くる病」であった可能性は高いと思います。しかし実は、立って歩けないほどの病状ではなかった。彼女本人が意識していないところで「筋肉は働き関節は動かせていた」可能性が高いと思うのです。以前は「ヒステリー」とか「心身症」などと呼ばれていた精神疾患で、現在は「身体化障害」や「身体症状症」と言われる疾患があります。僕は、クララがその精神疾患だったのでは、と思っています。
よく「精神状態が身体症状として現れる“身体化”」と呼ばれています。
病状や症状を大袈裟に表現したり、時には病状を捏造したりすることがあるけれど、本人にその自覚はなくて、本人が嘘をついていると言う自覚のある詐病(仮病のこと)とは区別されます。その点が非常に厄介で、本人の訴えを軽視したり無視したりすることで、自殺をほのめかしたり実際に自殺企図をしたり、最も典型なのは病院や主治医を変えたりして、生活の全てをその身体症状に支配されてしまうことです。
クララは幼い頃に母親を亡くしています。本来ならば母親に甘えたい盛の時に母を亡くており、父親のゼーゼマンは献身的にクララの世話をする事になるのですが、父親に母親の代りはできなかった…幼い頃というのは甘えることで愛情の確認作業をすることがあります。甘えに対して厳しくしつけられることが、成長するにつて、必ずしもよい影響を与えているとは限りません。
クララはもっと母親に甘えたかった。しかしもう母親はおらず父親に甘える対象を向けるわけですが、そこでやや歪んだ甘え方になってしまった。
つまり、クララは知らず知らずのうちに、抑圧している母親への甘えを身体化し「身体症状症」になったわけです。
身体症状症の場合、医療従事者の前では多様な症状を訴え、また実際に動けなかったりするわけですが、そうでない時というのは動かせていたりすることも多いのです。しかも本人はそれをハッキリと自覚しておらず、動かせていた事を指摘すると強く拒否反応を示すこともあります。
「クララが立った!!」
平たく言えば「健康な精神・心理状態」になれたことが、「クララが立った!!」
実は今回、このブログ記事を書くことにしたのは、ちょうど5年前の夏、前職で「身体症状症」の方を担当した経験があって、いつもこの時期になるとその方のことを思い出すのです。
ハッキリと「身体症状症」と診断された方と、おそらくそうであろうと言う方を、半年の期間をおいてお二人、担当させていただくことがあった、どちらも若い男性で。いつも「彼らは元気にやっているのかな」「今はどんな生活をしているのかな」と思いを巡らす事が、この季節になるとあるんです。
次回は、そのお二人の事について、少し書いていきたいと思います。
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