最近のこのblogの話題は、心理学的なお話が多かったので、ここらで少し、一般医学的なお話を。
時々、マスコミの報道で「俳優の〇〇さんが心不全で◯月◯日亡くなっていたことが分かりました。」「歌手の〇〇さんが呼吸不全のため、本日◯時亡くなられました」こんな文言を聞いたこと、ありませんか?
この〇〇不全と言う表現の仕方なのですが、実は、厳密に言うと「病名」ではないのです!
「〇〇不全」と言う名前のつく病名(?)をいくつか挙げてみますね。
心不全
呼吸不全
肝不全
腎不全
多臓器不全
免疫不全
よく耳にするものとしては、これくらいでしょうか。もっと言うと
慢性心不全
慢性呼吸不全
慢性腎不全
慢性免疫不全
と、『慢性』と言う言葉がくっつくこともあります。
さあ、そろそろ答え合わせしましょうか(笑)
この『不全』と言う言葉がつくのは、「その内臓の機能が低下(または停止)している状態」と言うことを言い表しています。
例を一つ挙げてみましょう。
『心不全』とは…
心臓の機能が低下(または停止)している状態。心臓の機能というのは、心筋(心臓の筋肉)が収縮したり弛緩したりして、血液を全身に送り血流を生み出す、と言うのが心臓の機能です。
では、心臓の機能が低下(停止)してしまう病気というのは具体的に、どんな病気があるのでしょうか?
例えば…
虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症など)
高血圧性心疾患(左心室肥大症など)
弁膜症(大動脈弁狭窄症・僧帽弁閉鎖不全症など)
心筋症(拡張型心筋症・たこつぼ型心筋症など)
心筋炎
先天性心疾患(心室中隔欠損・心房中隔欠損など)
不整脈(心室期外収縮など)
病気の名前というのは、一見、複雑そうに見えますが、実はある程度の規則性があります。
例えば、弁膜症の一つ『大動脈弁狭窄症』と言う病気を例に上げてみましょう。
上の図の「大動脈弁」と言う箇所がありますよね。見つけてください(笑)
この『弁』というのは、血液の流れが逆流しないように、心臓の鼓動に合わせて、閉じたり開いたりします。しかし、様々な原因(その多くは加齢)によって、この弁が固くなったりカルシウムなどがくっついて、その閉じたり開いたりすることが難しくなることがあります。そうすると、血液が流れる経路が狭まり、なかなか血液が流れにくくなるんです。
『大動脈弁狭窄症』=大動脈弁が固くなって血液の流れる経路が狭くなる(狭窄)病気
と言う事になるんですよ。
さて、随分と話が脱線しました(笑)元に戻します。
『〇〇不全』と言うのはその機能が低下(停止)した状態ですので、先に上げた『心不全』以外の事をまとめると、以下の通りになります。
呼吸不全=呼吸に関係する臓器(主に肺)の機能低下(停止)
『肝不全』=肝臓の機能低下(停止)
肝臓にはいくつかの機能がありますが、例えば体内に入ってきた毒素を解毒する作用や、古くなった血液の細胞を壊して尿として排出する、など。
『腎不全』=腎臓の機能低下(停止)
腎臓は、血液をろ過して尿を作る場所です。
『多臓器不全』=このままです(笑)ありとあらゆる内臓が機能低下(停止)していまう状態で、高エネルギー外傷(交通事故や飛行機事故など)や高度の火傷などで多くの臓器が一度に機能低下(停止)していまう状態です。
『免疫機能不全』=免疫機能と言う、体の外からやって来る、人間の体に害を与えるウィルスや菌を体内で攻撃してやっつける機能の低下(停止)です。
ちなみにボクも罹患している「HIV感染症」ですが、これが進行すると「AIDS」になります。「AIDS」の和名は『後天性免疫不全症候群』と言います。
こうやって見てみると『〇〇不全』というのが「病名ではない!」と言う理由がはっきりわかっていただけましたでしょうか?
ご自身の身内の方が亡くなられた時に、各所に提出しなければならない『死亡診断書』と言う書類がありますよね。もし、機会があったらそれを見てみてください。結構「〇〇不全」と言う言葉で、表現されていることが多いんです。
でも、これはその死亡診断書をかいた医師が悪いとか、知識がないと言うふうに受け止めないでいただきたいです。人間の『死の理由』というのは、厳密にういうと『死体解剖』しなければ分かりません。絶対に。または、『死亡時画像診断』のように、亡くなられてからCTやMRIなどで撮影し、内臓の状態を確認しなければ、ちゃんとした理由は分かりません。
医師で作家の海堂 尊氏はこのような日本の状態を『死因不明社会』と表現されています。そして同名の書籍もあります。
もし、ご興味があれば一度、お読みいただくことをオススメします。
人間の体というのは本当に不思議なものです。医学の進歩は日進月歩ですが、それでもまだまだ。
だから、面白い、と言うのもあるのですが。
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