人はとかく色んな意味で『他人を変えよう』とします。
それは
その人の立ち居振る舞いが受け入れがたいから、とか
もっと良い考え方や受け止め方があるから、とか
より良い選択をさせたい、とか
そんな理由からだと思います。
しかし、大体の場合、それは失敗に終わります。それはどうしてか…なぜならば『説得』を試みるからでしょう。
ではまず、言葉の整理から。
説得とは…
〘名〙 よく話して得心させること。納得するように説きさとすこと。
[名](スル)よく話して、相手に納得させること。「強行派を説得する」「説得力」
ま、このあたりは分かりますよね。説明文を読むと『得心“させる”こと』『説き“さとす”こと』『納得“させる”こと』と言うように“させる”とう言う言葉が指し示す通り、他動的であり相手を変化“させよう”とするのが『説得』です。
ボクの経験した話を一つ。
理学療法士という職業柄、臨床の場で患者様に対し、何らかのアプローチをする際、どうしても『説得する』と言う場面に遭遇します。例えば、自力で外出できるようになりたいと言う希望をお持ちの患者様が、リハビリの効果の限界が見えて来た頃、例えばシルバーカーを使えば一人で外出も可能だろう、とその患者様を取り巻く支援者たちは判断しました。しかし本人は「見栄えが悪い」「扱いが難しい」などシルバーカーを使うことに対して難色を示したとします。そうするとボクたちはどうしても『説得』と言う方法を取りがちです。「シルバーカーを使わないと危なくて外出は無理」などと言ってなんとかシルバーカーを使わせようとします。
もちろん、人それぞれですし『医療の現場』と言うこともあって、説得がうまくいく場合も多いのですが、そうでないケースもあります。
ここで少し、心理学的なお話を致しましょう。
『説得』というものが心理学的にどのように説明されているか、『最新 心理学辞典』から引用しますね。
説得とは、受け手(説得される側)の抵抗や反対が予測される問題(説得テーマ)について、送り手(説得する側)が主として言語的な説得メッセージを受け手に対して意図的・効果的に呈示し、受け手の自由意志を尊重しながら、説得テーマに対する受け手の態度と行動を送り手の望む方向に変えようとする社会的影響の一種である。送り手は、受け手に対してある行動を取ってほしい、あるいはある考えをもってほしいという目標を設定する。受け手が送り手の望まない行動を行なっていたり、望まない態度を保持していたりするからである。しかも、送り手の要求を単に受け手に伝えるだけでは抵抗が予測され、応諾や賛同を得ることができない。送り手は、自分の要求の妥当性を論理的に主張するために、理由となる論拠を受け手に呈示して、受け手の態度や行動を変容(態度変容・行動変容)させようとする。その際、送り手は、受け手の態度や行動を強制的に変容させるのではなく,受け手が態度や行動を変容させることの意味や意義を十分理解し、納得したうえで応諾するように働きかける。
ここで『送り手の要求を単に受け手に伝えるだけでは抵抗が予測され』と言うように、最初から『一筋縄ではいかないよ~』と言っているのだけれどもそれでも、受け手の『態度変容・行動変容させよう』とする、と述べていますよね。最初から『外的動機づけ』によってなんとかさせよう、と言うのが説得です。
さらに『最新 心理学辞典』では「説得を成功させるための規定要因」についても書かれています。
【説得の4種の規定要因】 説得の受け手の反応(説得効果)を規定する要因として四つが挙げられる。すなわち①送り手の属性②説得メッセージの構成③説得の状況④受け手の属性である。
①送り手の属性
送り手の属性として注目される要因は、送り手の信憑性と好感度である。信憑性は、専門性と信頼性から構成されるととらえられている。専門性とはある特定の領域における専門的知識や技能が豊富なことであり、公的に認められた資格を保有していることが多い。専門性が大きくなると、公的な裏づけのある資格を保持することによって正当性も保持するようになる。もう一方の信頼性とは、送り手が自己利益のみを優先させるのではなく、受け手の利益のために自分のもっている専門的知識を活用することによって受け手から信頼されることである。一般に、説得の受け手は、信頼できる専門家からの影響を受ける傾向があるが、信憑性と説得効果との間に必ずしも一貫的な効果は認められていない。
②説得メッセージの構成
受け手の説得効果を規定する第2の要因である。説得メッセージの構成の内容は、論拠の一面呈示と両面呈示、結論の明示の有無、論拠の呈示順序、恐怖喚起などがある。通常、送り手の説得メッセージを作成する際には、受け手の賛同を得るために、自分の主張を裏づける論拠を用意する。たとえば、受け手に禁煙を促す場合には、禁煙を勧める理由を呈示する。喫煙が身体に悪影響を及ぼすこと、副流煙が周囲の人に迷惑をかけること、タバコを購入するコストがかかることなどである。このように送り手の主張を裏づける理由のみを呈示するのが一面呈示である。この場合には、受け手の言い分を無視するような形になり、受け手の反発すなわち心理的リアクタンスを引き起こしやすく、受け手の賛同を得にくくなる。そこで、受け手の考えも考慮して説得メッセージの中に送り手の主張点だけではなく、受け手の視点にも言及することが考えられる。それが両面呈示である。説得テーマが健康や安全行動を促す内容の場合には、受け手に恐怖感情や脅威を喚起することが可能である。こうした場合、恐怖を喚起することは、恐怖を喚起しない場合に比べて、受け手の態度変容を引き起こすことができる。さらに、そうした恐怖や脅威を低減するにはどのようにすればよいかという情報を提供すると、送り手の主張する方向への態度変容・行動変容が生じやすくなる。
③説得の状況
説得の状況に関する要因として、説得の予告・説得の反復・送り手の人数・説得の妨害要因(騒音・蒸し暑さなど)・説得メッセージの伝達メディア(テキスト文・静止画・動画)などを挙げることができる。まず、説得の予告とは、受け手に説得メッセージを呈示する前に、説得することを予告したり、送り手の主張点を呈示しておいたりすることである。特に説得テーマへの自我関与度が高い場合、説得することの予告は、受け手の抵抗を生みやすく、説得効果が低下する。逆に、自我関与度が低い場合、送り手の好感度が高ければ、説得の予告が説得効果を高めるという。説得メッセージを繰り返して受け手に呈示することは(1回呈示に比べ、複数回呈示の場合は)、受け手の理解を促し、説得効果を高めるけれども、反復して呈示する回数が多くなると(たとえば3回呈示に比べて5回呈示の場合は)、受け手の反論が頭に浮かびやすくなり、説得効果は低減するようである。送り手の人数が多くなるほど説得効果は高まると考えられるが、各送り手が異なる論拠を呈示することが説得効果を高めると指摘している。また、送り手の好感度が高く、理解しやすい説得メッセージの場合は、テキスト文よりは動画を用いた方が説得効果の高い傾向にある。
④受け手の属性
説得メッセージからの影響を受けやすい個人的属性として、自尊心・性別・認知欲求・セルフモニタリング・独断主義などが指摘されている。自尊心と説得されやすさ(被説得性)との間には、逆U字型の関係が認められており、自尊心が低くても高くても説得されにくい。性別については、女性の方が男性よりも説得されやすい傾向にある。しかし、他の要因に比べれば、受け手の性別は相対的に頑健な効果をもたないようである。
平たく言えば
①どんな人が説得するのか
②説得する内容
③説得する時の環境
④説得される側がどんな人か
この4つによって、説得できるか否かが決まってくる、と言うことです。
ボクの書いたblog『あなたは世界を全て色眼鏡で見ている…認知バイアスとは?』でもお伝えしていますが、人は知らず知らずのうちに、事実を自分の都合の良い方に理解・認知してしまう生き物です。同じ事実があったとしても、それをどのように受け止め解釈するのかは、本人次第、なんですよね。
上で記した【説得の4種の規定要因】である①送り手の属性②説得メッセージの構成③説得の状況というのもに、その認知バイアスは関与してきます。またその認知バイアスの元となるのが④受け手の属性です。
言ってしまえば世の中『主観』が全てなんです(笑)
こんな事を言ってしまうと元も子もないのですが(笑)
だから、と言う訳ではないのですが、説得をしようとする時、相手がどのような認知バイアスをもっているのか、どんな主観の中で生きているのか、それらをキチンと把握しなければ“説得”は無駄骨に終わります。
下手をしたら、さらに抵抗性を示すかも知れません。更に言うのであれば、説得する側のその情報や内容が本当に説得される側のメリットになるのかどうかを、根本から見直す必要があるかもしれません。
『説得する』というのは、実は並大抵の努力ではうまく行かないんだ、と言うことを少し掘り下げてみました。それでも人は、時に『説得する』と言う方法を取らなければならない場面が出てくるかと思います。
その時、どうしたら良いのか、今回のblogを良く読んで考えてみて下さい。ヒントをいっぱい散りばめておきましたので(笑)
健闘を祈ります。