前回は、HIV陽性者に対する偏見・差別(行動)は何故起こるのか、【情報を正しく扱う】をキーワードに大きな流れをご説明しました。今回はそれを【医学的側面】から考えてみたいと思います。
偏見や差別(行動)と言うのは、様々な要因が絡み合います。突き詰めていくと個人個人の価値観や倫理観、哲学や生育歴などが関与してきますので、それはとりあえず脇へ置いておいて(笑)多くの人が当てはまるであろう事実に基づき、ボクの知識と経験を総動員して(笑)それを一つ一つ紐解きながら、できるだけわかりやすくお伝えできれば、と思っております。
1.感染症であるということ
人は目に見えない脅威に恐れを抱きます。逆に言えば目に見えて認識できる脅威に対しては、その脅威を脅威として認識することで、例えばその脅威から遠ざかる(遠ざける)とか、脅威を消滅させる方法がわかっていればその方法で対処するなどの行動を取ることができます。
しかし、目に見えない脅威にはそれが通用しません。
ですので、脅威がそこにあると分かっていても目に見えないことで恐怖心を呼び起こします。
それが人間の健康を脅かすウィルスや菌などに当てはまります。この数年間、Covid-19の感染拡大に伴って、人はその見えない脅威にとても恐怖を感じ、マスクをし、手指消毒を行い、見えない脅威をなんとかして体内に入れないようにしようと躍起になっていました。一時期は街から人が消え、会話のない食事をし、密にならないと言う2mの間隔を空け、ディスプレイや透明なアクリル板越しでしか顔を見ることができなくなりましたよね。
それはHIVも同じことです。
2.性感染症であること
HIV感染症の感染経路は大きく分けて3つ。母子感染、針刺し感染、性感染です。母子感染は母体がHIVに感染している際、胎児が産道を通る時に母体から感染してしまうと言う経路です。針刺し感染は、違法薬物などの注射の回し打ちや医療事故による経路です。そして性感染は、性行為によって伝染る経路です。現在の日本では、母子感染や針刺し感染はほとんどなく、性行為による感染経路がほとんどだと言われます。
皆さんは「性感染症」と言うとどのようなイメージがあるでしょうか?
例えば…
・セックスワーカー
・不道徳
・節操がない
・不義理
・刹那的
・無責任
そんなイメージが湧いてきませんか?
日本はいつの間にか『性』に対して閉鎖的で、何となく『負のイメージ』が植え付けられてしまいました。一説によると戦後、他宗教の影響を受けているとのことですが、詳しい事は割愛します。
そして性行為で伝染る病気であるという事だけで、忌み嫌われる原因になっていると思います。
3.行動免疫システムに従う生物
生き物は『自分の生命に危険を及ぼす可能性のあるウィルスや菌、カビなどに汚染されている(かもしれない)ものに対して“嫌悪感情”を覚える』と言う習性があります。例えば、糞尿などや人の吐瀉物、カビが生えていたり腐っていたりする物などの存在が分かったり目に見える形で認識すると、「触れてはいけない」「口にしてはいけない」など『生物としてのアラーム』が鳴り、自然にそれらを避けるような行動をとります。
つまり『何かに感染している』と言う事実があるだけで、人には『それを嫌悪し避ける』事が当たり前の反応として備わっているのです。この様な行動をとることを『行動免疫システム』と言い、人間だけでなく多くの生物の習性として備わっています。
誤解を恐れずに言うと「差別することは自然な現象」とも言えるわけです。
さて今回は、HIV陽性者に対する偏見や差別がなぜ起こるのか、【医学的側面】から少し考えてみました。次回は、HIV感染者にはどんな特徴があるのか、またその療養生活などの社会福祉学的側面からお伝え致します。
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