最近、よく耳にする「エモい」と言う言葉。実は「エモい」と感じると、脳に良い効果を与える、と言う研究結果が出てきているようだ。
私達世代は「キモい」「ハズい」などの言葉を日常的に使う(使ってきた)世代で、それぞれ「気持ち悪い」「恥ずかしい」のスラングだけれども、もう『若者言葉』ではなくなってきている。
「エモい」は「エモーショナル(Emotional)」が由来で日本のスラングで若者言葉だ。もっと起源を遡ると、音楽ジャンルの一つである「Emo(イーモウ)」だと言う説もある。どちらにしろ、意味合い的には『感情が揺さぶられた時や、気持ちをストレートに表現できない時、哀愁を帯びた様、趣がある、グッと来る』などに用いられるとのこと(Wikipedia参照)。私が日本語で表すとしたら『情緒的、叙情的』とでも言えると感じている。
どんな時にエモいと感じるか。一番、分かりやすく身近なのは「懐かしい」と感じる時である。
懐かしい曲を聞く
懐かしい味に出会う
懐かしい景色をみる
懐かしい人と会う
皆さんは、そういう「懐かしい」を感じた時、またはその後、どんな気分になるだろうか。何となく「気分が晴れやかになる」「前向きになる」「スッキリする」そんな気分を味わうことが多いのではないだろうか?
生きている時間が長くなると、もちろん忘れていく過去もあるが、何かのきっかけでその当時の事を思い出し、「懐かしむ機会」が増える。大変かわいそうな話だが、年齢が若ければ若いほど「懐かしむ事柄」が少なく、その機会が少ないだろう。だから「懐かしむ事」は年長者の特権だ。
どうもこの「懐かしむ」事で得られる気分というのは、脳内で『ドーパミン』と言う物質が分泌され活性化されている可能性が高い、と言う研究結果が出てきている。
ドーパミンと言う物質名は、どこかで一度は聞いたことがあると思う。
よく「報酬系」と言う言葉を聞くことがあると思うが、人間が“快”の感覚を味わうと分泌される神経伝達物質の一つで、アルコールを始めとする依存物質を体内に摂取するとドーパミンが“過剰に”活性化されると言われている。
この様に記載すると「ドーパミンは怖い物質」と思われてしまうかもしれないが、ドーパミンそのものは、元々体内で作れる物質で、体内に元々存在するということは、人間として生きていくために必要な物質である。
ドーパミンが活性化されると、幸福感を感じたりやる気を起こしたり、運動機能との関係も密接に関わっているとされており、とても大切な物質の一つである。
そして近年、明らかになりつつあるのは、このドーパミンの活性化が認知症の発症にも関与していること。端的に言うと「エモい」を感じると「認知症の発症を遅らせられる可能性が高い」と言われている。
この話題を目にした時、思い出したことがある。
随分前から、リハビリの世界では「回想療法(回想法)」と言う治療方法が認知症の予防や進行を遅らせる効果があると言われてきている。これは、昔の懐かしい写真や音楽、昔使っていた馴染み深い家庭用品などを見たり、触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う一種の心理療法で、1960年代にアメリカの精神科医、ロバート・バトラー氏が提唱した。
私の記憶をたどると、「愛知県北名古屋市に回想法センター設立した」と言うニュースを見た。(https://www.city.kitanagoya.lg.jp/fukushi/3000075.php)
私は、帰省するたびに母親に昔話を聞くようにしている。それは、「回想療法」の効果を知っているため意図的に聞くこともあれば、話の流れでそうなることもあるのだが、母がいつも「こんな昔話聞いても面白くないでしょ?」とやや自虐的に言うのだが、私は母にいつまでも元気でいて欲しいと思い、昔話を聞く。
事実、私自身の知らない父の話や、祖父母の話し、母の生い立ちやその頃の生活環境の話を聞くのは大変、興味深く、大変面白い。
年を取れば誰しも物覚えは悪くなり、目は見えづらくなるから文字を読むことを避けるようになり、身体一つ動かすのにも億劫になり、「できなくなること」が増えることで、下手をするとそれだけでも憂鬱な気分にさせたり落ちこませたりするものだ。
しかし、それは誰しもが通る道。行く道である。
いつかは「死」を迎えるのだが、その瞬間まで、ご自身がご自分の人生を後悔せず「こんな人生だったけど良い人生だった」と思えるよう、私達が出来うることをしていきたいと思っている。
それが「昔話をする」と言う「エモい」体験を通して、最後の最後までよい気分でいられるのであれば、喜んで昔話を聞こうではないか。
そして最近、精神的に辛いとかなんだか憂鬱だとか、やる気が出ない、前向きな気持ちになれない、そんな事を感じているのであれば、昔の友人に連絡を取って昔話をしてみてはどうか。
または、昔、住んでいた街を訪れたり、アルバムを開いて昔の写真を見たり、よく聞いていた音楽をもう一度聞き直してみたりしてみてはいかがだろうか。