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オンラインカウンセリング「勇者の部屋」の産業カウンセラー勝水のブログです。セクシャルマイノリティ(ゲイ)・身体障害者(HIV陽性者)・精神障害者(双極症)の当事者としての目線と、理学療法士・社会福祉士・産業カウンセラーとしての目線で、今まで経験したことや普段考えていることなど、様々な情報発信をしております。

2023年10月27日金曜日

HIV感染症の弊害?!HAND(HIV-associated neurocognitive disorder:HIV関連神経認知障害)

 先日、『HAND(HIV関連神経認知障害)の有病率は3~4人に一人』と言うニュースを目にし、SNSで情報共有したところ、詳しく解説して欲しいとのご要望があり、今回、この様なテーマでお話しを進めていきたいと思います。



まずは基本中の基本。HIVとは?エイズとは?
HIVとは「Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス」のことで正確には『ウィルスの名前』です。時々、メディアで「エイズウィルス」と言う表現をされることがありますが、それは誤りです。医学的に「エイズウィルス」なんていうウィルスは存在しません!!
ではエイズとは「Acquired Immuno-Deficiency Syndrome:後天性免疫不全症候群」の事で、「症候“群”」ですので様々な疾患の集まりです。ただの集まりではなく「HIVが原因で起こる病気の集まり」のことを示しています。

HIVが発見されたのは1983年のアメリカですので、ウィルスそのものが発見されてまだ40年ほどしか経っていません。ですので、HIV感染症やエイズと言う病気には未知の部分があるのは仕方のないことなのですが、徐々にその特徴が明らかになってきているのも事実です。


おおよその事は、皆さんご存知のことと思いますし、あまり詳しいことをココでお話してもこれ以上、読み進めたくなくなると思いますので(笑)割愛しますが、このウィルスが人間の免疫細胞に悪さをする、と言うのは、何となくご理解されていることと思います。


今回、話題に取り上げるのは、このHIVに感染することで合併症として発症すると言われている『HAND(HIV-associated neurocognitive disorder:HIV関連神経認知障害)』についてとりあげます。


実はこのHAND、なぜHIVが神経に関連した症状を引き起こすのか、ハッキリと分かっていないのが現状です。

ただ、東京医科大学病院臨床検査医学科主任教授の木内英氏によると2つの事が考えられると言われています。


①HIVは中枢神経系に侵入することはできませんが、HIVに感染した単球(免疫細胞の1つ)は神経組織に入り込む事ができます。その感染した単球から神経組織内でHIVが放出され、ミクログリアと言う脳の中に常に存在する免疫細胞に感染する。そのミクログリアがHIVを放出し、HIVの成分が神経細胞の一部を直接、傷つけている、と言う説。

②HIVに感染したミクログリアは「ボク!危ないウィルスに感染しました!」と言う信号を細胞の外に色々な化学物質として放出します。その化学物質そのものが神経細胞の一部を傷つける事もあります。また、その化学物質を星細胞と言う細胞が受け取り、その星細胞が更に「やばいよ!やばいよ!」と言って色んな化学物質を出し、神経細胞を過剰に興奮させ死滅させてしまう、と言う説。


先程「エイズは疾患群だよ」とお伝えしましたが、具体的な病名としては上に示す表のとおりで、全部で23疾患あります。その22番めに「HIV脳症」と言うのがありますよね。つまり、HIVに感染することで神経の塊である『脳』に大きなダメージを与えることは以前より分かっていました。

しかし現在、治療方法が改善し、定期的にお薬を服薬したり注射を打つことでHIVを極限にまで減らすことができるようになり、「エイズ」まで至る事なく日常生活を送ることができるようにりました。

ここで重要なのは「極限にまで減らせる」ことができるようになっただけで「消滅させる」事はできない、ということです。いくらお薬を飲んでいても注射を打っていても、わずかながらにHIVは体内に存在し続けると言う事実があります。


HANDはその「微量に残っているHIV」が神経に悪さをすると考えられており、「脳症」と言う大袈裟な病気までは至らないにしても、神経や脳に関連した何らかの障害(神経認知障害)が出てくる、と言われるようになりました。


認知機能というのは、様々な要素が組み合わさって成り立っている人間の脳の機能のことですが、おおよそ上の表な機能に分類されます。高齢者の「認知症」なども「認知機能障害」と呼ばれますが、認知症では特に「記憶」の部分に障害が出ることが多いとされていますが、HANDの場合、多岐にわたって障害がでます。

そこでHANDに関しては、国際的に下の表のような分類をしましょう、と言う決まり事があります。


「2領域で」と言う記載がありますがこの「領域」というのは、先程お見せした表の「言語」「注意・作業記憶」「遂行機能」「学習」「記憶」「情報処理速度」「運動技能」「視空間構成」この8領域のうちの「2領域」と言う意味です。


この様にHANDと言う認知障害がありそうだぞ、と言うのは以前から言われていました。しかしボクも疑問に思っていたのですが、もともとうつ病を持病として持っていたり、またHIV感染症となることでうつ病を発症したり、違法薬物を使用することで脳の機能が低下したり、もちろん加齢に伴う認知機能の低下もあったりと、果たして本当に「HIVが原因で認知機能に障害が起こるのだろうか?」と言うのが正直な気持ちでした。

そこで前述の木内英氏らは、日本におけるHANDの有病率と関連因子について多施設前向き横断研究(J-HAND研究)を行ったそうです。2014年7月から2016年7月までデータを収集し、728人のHIV陽性者からデータを集めたところ…

ANI(無症候性神経認知障害)が98例(13.5%)、MND(軽度神経認知障害)が77例(10.6%)、HAD(HIV関連認知症)が9例(1.2%)だったそうです。全てを合わせると、全HIV陽性者のうちの約25%がHANDに当たる、との結果でした。


ここで、数字のトリックに惑わされてはいけません。
ANIは「無症候性であり日常生活に支障がない」と言うレベルです。その人達の割合が13.5%です。そしてMNDは「軽度神経認知障害であり日常生活に軽度の支障あり」が10.6%です。「日常生活に明らかな障害がある一番重度」のHADが1.2%です。

もう一度繰り返します。
日常生活に明らかな障害があるHADは1.2%です。

確かに“HAND”と言うくくりでみたら約25%ですので4人に一人の割合です。とても高い割合に見えますが、日常生活に大きな障がいがあるとされるレベルでは1.2%なんです。


そして、一番重要なのは、ART(多剤併用療法・抗レトロウィルス療法)を行っているかどうか(治療を失敗せずに継続できているかどうか)とHANDの関係性です。その結果、ART未実施の場合、MNDおよびHADの有病率が優位に高かったと報告しています。

つまり、ARTを行ってウィルス量が十分に抑えられている場合とそうでない場合では、重度の認知障害があると言っています。


HIVがどの様に神経に悪さをするのかは分かってはいなけれども、ARTでウィルスを極限まで抑え込んでいれば、神経に悪さをする可能性は極めて低い、と言っており、結局はHIVが神経に悪さをしている「可能性が高い」という結果になります。


HANDに限らないことではありますが、HIV感染症/AIDSと言う病気は、防ぐことが可能な病気です。そして、ご自身の健康状態を知り(HIVステータス:HIVに感染しているか否か)、感染している事がわかった段階で早めに治療・投薬を開始すれば、長く健康でいられます。

冒頭にも書きましたが、HIVが発見されてまだ40年ほどしか経過していませんが、この分野の研究というのは非常に速いスピードで発展しています。もちろん、まだまだ未知の部分が多い病気ではありますが、むやみに恐れる必用のない病気と言っても過言ではないでしょう。



もう一度言います。

むやみに恐れる病気ではない、と言っても過言ではないでしょう。

健康に老いる!?①社会的なつながりと老いてからのウェルビーイング

 超高齢化社会…誰もが長く健康でありたい、と思うのが当たり前の世の中になりましたね。中には「とっとと早くあっちに逝きたい」と思っている方もいると思いますが(笑)、それでも「老いてもできるだけ人の手を煩わすことはしたくない」と思っている人は多いと思いますし、お子さんがいらっしゃるなら「子どもの世話にはなりたくない」と思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。



厚生労働省の発表によりますと、2022年日本人の平均寿命は男性で81.05 年、女性で87.09年だったとのことです。また、健康寿命と言う観点からでは2019年日本人の男性で72.68歳、女性で75.38歳だったとのこと。


健康寿命とは…
健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のこととされています。

上の図のように、平均寿命と健康寿命の間には男性で8.73年、女性で12.06年と言う差があり、この差というのは「何らかの健康不安があり要介護状態である期間」ととらえていただいていいと思います。


ウェルビーイングとは…
ウェルビーイング(well-being)とは、心身と社会的な健康を意味する概念です。直訳では「幸福」「健康」「福利」を意味します。ウェルビーイングは、満足した生活を送ることができている状態、幸福な状態、充実した状態などの多面的な幸せを表す言葉です。瞬間的な幸せを表す英語「Happiness」とは異なり、「持続的な」幸せを意味します。


ヒトは年を取り老いてくると、持病を持ったり怪我をしやすかったりして「健康」と言う状態を維持することが非常に困難になってきます。これはヒトが生物である以上、避けて通れません。しかし自分自身がいかに「幸せと感じる」か「生きていて良かったと感じる」かには、必ずしも「身体的な健康」が絶対条件ではない、と言うのは何となく皆さんも感じるところがあるのではないでしょうか。


ここに面白い研究があります。

Social isolation and subsequent health and well-being in older adults: A longitudinal outcome-wide analysis (Social Science & Medicine 2023年6月)

新潟大学などの研究グループは、「日本老年学的評価研究」(JAGES)に参加した全国の65歳以上の成人3万4,187人(一部4万7,318人)を2016年から3年間追跡し、社会的孤立とウェルビーイング(健康・幸福)との関連を調査しました。

 社会的孤立については、配偶者・子供・親戚・友人・社会参加の5つの指標の合計(5点満点・点数が低いほど孤立していない)と、指標ごとに評価した。

 合計で4点以上の人つまり社会的に孤立していると思われる人は、0点の人に比べて、死亡リスクは1.9倍、認知症は1.6倍、介護リスクは1.5倍にそれぞれ上昇し、抑うつや幸福感、希望、歩行、健診受診などの指標とも関連があることが明らかになったと報告しています。


少しココで言葉の整理をしましょう。みなさん「孤立」と「孤独」の違いって分かりますか?ボクもハッキリとは知らなかったので調べてみました。

孤独:寂しいというような主観的な「感情」のことです。
孤立:客観的に見て他者とのつながりが少ない「状態」を指します。

少しひねって考えますと「孤立」していても「孤独」ではないこともありうるのです。「孤独」はあくまでも主観的な感情ですので「自分が孤独であると感じるかどうか」が焦点になります。


上記の研究では「孤立とウェルビーイング」ですので高齢者が「孤立」していると言う状態とウェルビーイングにどの様な関係にあるのかを調査した研究ですので、「孤独」と言う感情は調査の対象にはなっていません。

しかし、この研究からは「孤立している人のほうが」「死亡リスク・認知症リスク・介護リスクが高い」と言っています。

この研究の画期的なことというのは「3年間の追跡調査をした」と言うところです。これを「前向き研究」と言うのですが、同じ人を3年間、定期的に調査していくことで、どんな事が言えるか?と言う調査を、約3万人以上の方に対して行ったところです(これ以上は専門できな話になるので割愛します)。

今回の指標には「配偶者」「子ども」「親戚」「友人」「社会参加」と言う5つの視点からそれぞれ「どの程度孤立しているか」を点数化しているのですが、「配偶者」「子ども」に関してはもともといらっしゃらない、と言う可能性も高いですよね。「親戚」と言うのも、年齢とともに疎遠になったり、何かのキッカケで縁が切れてしまったりと言うのはよくある話です。


残念ながら、ボクがこのブログ記事を書いている段階では、「配偶者」「子ども」はおりません。そもそもボクはゲイなのでこの辺りの分析というのは難しいとは思うのですが、もしボクが配偶者と同等の価値と思える「パートナー」がいればそれだけで孤立するリスクは下がるでしょう。

今の日本の法律では「同性間で子どもをもうける」には様々なハードルがあるため現実的ではありません。



そうなると「友人」「社会参加」と言うものがどれほど大きなウエイトを占めるか、必然的におわかりになられるかと思います。

ボクはこのオンラインカウンセリングの中で何名かのセクシャルマイノリティの方と関わらせて頂く機会がありました。その中で「友達はいるけれどこんな深い(密な)話しをする間柄ではありません」と言う方がほとんどでした。

セクシャルマイノリティであってもマジョリティであっても同じ様に社会生活を送り、家族があり、地域で生活しているわけです。しかしご自身が「セクシャルマイノリティである」と言うことを開示できず「本来の自分」を表現しながら生きていくということは、今の日本では難しい現状です。

また、「ある程度の年齢になると友人を作りにくくなる」というのは、ある程度の年齢の人なら理解できることかと思います(笑)。


そうなると、積極的に自分自信から何かしらの「コミュニティに参加する」事が望ましいと考えます。それは「会社」とか「お仕事」から離れたところでの活動です。

何かしらのコミュニティに参加するというのは、始めはとても勇気がいります。しかし、その一歩に勇気を持って踏み込めば、実はとても居心地のよい場所になり得ますし、そこで新たな友人に出会える可能性も高まります。


ボクが思うに、こういうコミュニティへ参加しようと意識し、実際に行動に移せるような年齢というのは30代~40代だと思います。ソレ以上になると「わざわざ感」が出てきて腰が重くなり、「社会参加」から遠のいてしまいます。



ボクがゲイだから、というわけではありません。これはセクシャリティ云々に関わらず、どんな人にでも言えることだと思っています。

さあ、勇気を持って、色んな人と関わることに挑戦してみて下さい!!


2023年10月25日水曜日

あなたは知っていますか?「8050問題」

 現在の社会問題となっている「引きこもり問題」。そしてその問題に関連して「8050問題」と言うものが現在の日本で取り沙汰されることも多くなりました。

人はなぜ引きこもるのか…

様々な視点から色んな議論がなされていますが、今回は「引きこもる人と国の対策」に焦点を当てて、少し深掘りしてみたいと思います。



2023年3月31日に内閣府は「引きこもりは全国でおおよそ146万人と推定される」と発表しました。

そしてタイトルにも書きました「8050問題」というのは「80歳代の親が50歳代の子どもを支えるために経済的にも精神的にも大きな負担を強いると言う社会問題」を指しています。

80歳代前後というのは第一次ベビーブームの頃に生まれた「団塊世代」でその子どもは「団塊世代ジュニア」とも呼ばれています。


上の図は、2022年10月時点での人口ピラミッドです。「Dankai」というのが「団塊世代」の事ですが、その前後に比べて突出して人口が多いのが見て取れると思います。そして「Dankai-Jr」というのが「団塊世代ジュニア」のことで、ちょうど第二次ベービーブームの頃に生まれてきた人達です。

「人口が多いんだから引きこもりの人数が多くても当たり前じゃない?」と思いますよね。ボクもそう思います。

この内閣府の発表をもう少し紐解いていきましょう。

広義の引きこもりの割合
・15~39歳で2.05%
・40~64歳で2.02%

現在の外出状況になった理由
・15~39歳では「退職したこと」21.5%、「人間関係がうまくいかなかったこと」20.8%、「中学校時代の不登校」18.1%、「新型コロナウイルス感染症が流行したこと」18.1%、「学校になじめなかったこと」12.5%等が上位。
・40~69歳では「退職したこと」が44.5%を占め、「新型コロナウイルス感染症が流行したこと」20.6%、「病気」16.8%、「人間関係がうまくいかなかったこと」11.6%であった。


15~39歳・40~64歳と言う「24歳区切り」の意味はハッキリとは分かりませんが(笑)2つの世代で広義での引きこもりの割合は大きく差がありません。ここで強調しておきたいのは「割合は」です。

では人数に換算してみましょう。
15~39歳:約3,445万人✕0.0205=約71万人
40~64歳:約4,235 万人✕0.0202=約86万人
その差は、約15万人にものぼります!!

しかも、40~64歳というのは、労働人口としても貴重な存在である(例えば管理職であったり後輩育成であったり)はずの人達が引きこもりになっていると言うのは、日本にとっては大きな経済損失とも言えるのではないでしょうか。

そしてもう一つ注目していただきたいのは、「引きこもりになった原因」です。40~69歳では「退職したこと」が44.5%を占めております。この調査ではその「退職した理由」は明記されておりませんが、この調査がコロナ開けに行われていることも踏まえると、コロナ禍で増えたとされるメンタル不調や失業なども大きく関わっていると思われます。


この「8050問題」には1980年代の引きこもり問題とは、やや、毛色の違う問題もはらんでいます。それは「親が80歳代前後であり健康問題を抱えている可能性がある」と言うことです。引きこもっている“子ども”にとってはある意味“親がライフライン”であり、親が要介護状態になることで、介護を担う子どもへの経済的・精神的負担、親が他界することで子どもの経済的危機が訪れる、と言うことです。


引きこもりの大きな原因の1つとして「対人関係の問題」があると言われております。しかしそれが本当の原因ではなく、引きこもる人の「心の病気」が関係していると言われています。

それは「うつ病」「社交不安障害」「統合失調症」「発達障害」などです。結局は、それらの心の問題を解決しなければ、引きこもりから脱することは困難とも言えるでしょう。


この引きこもり問題に関して厚生労働省は「ひきこもりVOICE STATION」と言うサイトを開設し「ひきこもり地域支援センター」という機関を各地域に設置しています。


ボク自身も50歳を前にして前職を退職しています。そしてボクは双極性障害と言う心の問題を抱えています。しかも前職を退職したのは、メンタル不調が主な原因でした。ボクはとてもありがたいことに、退職してすぐに支援機関の門を叩き、勇気を持ってボクの「負の部分」を支援者に開示することで、本当に必用な支援というものを手にすることができました。



まずは「救けて」とSOSを発することに躊躇しないでほしいと思います。

誰かに救けを求めることは恥ずかしいこと・後ろめたいことではありません。

2023年10月24日火曜日

「チーム・バチスタの栄光」田口先生の専門!不定愁訴

 「チーム・バチスタの栄光」シリーズで出てくる田口医師。
彼は、東城大学医学部付属病院の「不定愁訴外来」別名「グチ外来」の精神科医師です。ボクは、このシリーズが好きで、全ての小説を読破しております。

チーム・バチスタの栄光
ナイチンゲールの沈黙
ジェネラル・ルージュの凱旋
イノセント・ゲリラの祝祭
アリアドネの弾丸
ケロベロスの肖像
カレイドスコープの箱庭
コロナ黙示録
コロナ狂騒録

その他にも「桜宮市」や「東城大学医学部付属病院」に関連する海堂尊さんの作品はいっぱいあり、その作品一つ一つが、実はそれぞれに繋がりをもって物語が広がる面白さがあります。もちろん、医療ミステリーと言う意味でもボクの好きな分野なのですが。


さて、今日のテーマである「不定愁訴」とはなにか

不定愁訴とは…
患者からの様々な訴え、例えば「頭が重い」「肩がこる」「なんとなく食欲がない」「寝た気がしない」「疲労が取れない」などの訴えがあるものの、様々な検査をしてもその原因は見つからず、また、訴えがコロコロとその都度変わり、症状が安定しないことを指し示します。


精神医学や心理学に明るい方であれば「心身症(身体症状症)」と言う言葉を思い浮かべる方もいらっしゃると思います。

心身症(身体症状症)とは…
慢性的な身体症状がみられることに加えて、その症状に関連して不釣り合いに大きな苦痛、心配、日常的な役割遂行の問題がみられることを特徴とします。身体的な病気が否定されてからも依然として症状にとらわれ、心配が続く場合、または身体的な病気に対する反応が異常に強い場合、この病気の診断が下されます。

ただ、上記の図のように心身症の場合は何らかの「診断名」がつくことが殆どですが、不定愁訴にしろ心身症にしろ、原因は「ストレスからくる自律神経系の乱れ」が原因であるだろうと言われています。

つまり、症状としては「身体的な訴え」なのですが、その原因は「心」にあることがとても多く、身体的な症状の訴えばかり注目していても改善していかない特徴を持っています。

心身症と不定愁訴の違いをあえて言うならば、「心身症」はある一定の同じ症状の訴えをするのに対し、「不定愁訴」は症状の訴えそのものに一貫したものがない、と言う特徴の違いがあります。


上記の図のように、心身症には4つの側面から影響を受けているとされており、そのどれか1つが解決しても症状は軽くなりません。言い換えると、自律神経の働きというのは、様々な要因に左右されるため、一筋縄ではいかなんですね。


※ここからのストーリーはあくまでもボクの経験をもとにしたフィクションです。
そしてここでは「心身症」としての一例を挙げますが「不定愁訴」の場合も同じ様な経過をたどることが多いとボクは感じています。


例えば「ひどい肩こり」と言う症状で病院を受診したとします。

みなさんならまず「何科」を受診されますか?

恐らく多くの方が「整形外科」と考えるのではないでしょうか。


整形外科医からは「では首と肩のレントゲンを撮りましょう」となります。しかし、レントゲン上、首にも肩にも異常は見つからなかったとしましょう。整形外科医はとりあえず「痛み止め・湿布・胃薬を2週間続けてみましょう」となると思います。

しかし、症状は改善されず、2週間後、整形外科を受診します。「そうですか…それならば神経の可能性もあるので首のMRIを撮ってみましょう」となります。MRIで首の神経の状態を見ても、たしかになんとなく神経に触っているような所見があったとします。すると整形外科医は「では今までのお薬に加えて神経の通いを良くするお薬を追加で2週間出して見ますね」となり、ビタミン剤などが追加になります。


しかし2週間後、症状は改善しません。むしろ悪化したり症状の範囲が広がっている事も出てくるかも知れません。ここでやっと整形外科医は「もしかしたら心臓の病気の可能性もあります。循環器内科へ紹介状を書きますね」と言う事になり、今度は循環器科へ受診となります。

ここで1つ付け加えておきます。
実は狭心症や心筋梗塞などの病気で、特に左首~左肩~左背中にかけて痛みが出ることがあるんです。


さて、循環器科へ受診しました。「まずは血液検査と心電図を撮りましょう。お時間があれば胸部のCTもお願いします」となることが一般的です。循環器科医は検査結果をひと通り見て「心臓や心臓の血管には問題なさそうですね」「ではもう少し神経の病気を見てもらうために神経内科を紹介します」となり、今度は神経内科を受診することになりました。


神経内科では、今までの整形外科医や循環器科医の検査結果や診断を一通りみて、「じゃあとりあえず脳のMRIとCTを撮りましょう。そしてもう一度血液検査をお願いします」となります。

ここで1つ。
一言で「血液検査」と言っても検査する項目は非常に多くあり、「循環器疾患に関係する項目」「脳神経疾患に関係する項目」などあるため、何度も血液検査をすることも珍しくありません。

神経内科の医師はMRI・CT・血液検査の結果を一通りみて「どうやら神経の病気ではなさそうですね」「もう一度、整形外科の先生と相談してもらってリハビリしてみてもらってはどうでしょうか」となります。


“となります”で締めくくっていますが、最終的に原因は分からないまま「とりあえずリハビリ」と言う処方が出来上がることもあります。

このお話しは「フィクション」と書きましたが、実際にこういうやり取りがなされることもあり、本当は社会・環境面や心理・性格傾向など、いわゆる「検査」ではあぶり出すことのできないことが根底にあるにもかかわらず、そこに着目した治療がなされないため、「とりあえずリハビリ」が「なんとなくリハビリ」になり「ずーっとリハビリ」になっていくことも有りうるんです。

そして、「ひどい肩こり」だけであれば「心身症」と言う診断も納得がいくのですが、そのうちに「頭が痛い」「いつも吐き気がする」「腰まで痛くなってきた」などと症状に広がりをみせてくると、まさに『不定愁訴』となります。

こんな時、精神科や心療内科など、心の問題に着目してくれる医師がいてくださりうまくリファー(紹介)していただけると「ひどい肩こり」の裏に隠された精神心理的な原因が見えてくることもあると思います。

しかし患者さんからしてみると「肩こりなのに精神科?!」と驚かれる方、また受け入れてもらえない方もいらっしゃいます。

また、リハビリで患部を温めたり電気治療を行ったり徒手療法(マッサージ)などしながらセラピストが、温かくその方の他愛のないお話しに耳を傾けてくれる事が、心理的な癒やしになり症状としては軽くなっていく事もあるかと思います。しかし、根本的な原因の治療にはなりません。何度となく通院し、良くなったり悪くなったり他の症状を訴えたりと『リハビリに依存』するようにもなります。

リハビリセラピスト(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)は心の専門家ではありません。しかし、いつの間にやらリハビリセラピストが「メンタルフォロー」を担ってしまうことも、実は臨床ではよくある話なんです。



最近ではこのような「患者のたらい回し」や「不適切な検査や治療」をできるだけ避けるために「総合診療科」と言う標榜を掲げている病院も多くなりました。

総合診療科とは…
総合診療科は、特定の臓器や疾患に限定せず、患者さんの健康問題を幅広く対応する診療科です。総合診療科は、次のような診療を行っています:

・頭痛や発熱などのよくある症状
・複数の健康問題を抱える患者さんに対する包括的なアプローチ
・受診科が判り難い各種症状の診療
・生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)などの一般的な疾患
・感染症(肺炎やウイルス感染症、C型・B型肝炎、HIV/AIDSなど)
・漢方外来、渡航外来、禁煙外来



今は医療において、専門分野が細分化されてそれぞれのスペシャリストが増えています。しかし、「病(やまい)」と言うものを“まずは大きくとらえてあらゆる可能性を考えましょう”と言う考え方をしなければ、本当の原因を突き止めることが困難であるとボクは思います。

そのためには、患者さんご自身もあらゆる可能性を視野に入れてご自身の健康状態を把握し、医療従事者には正直な態度で接していただきたいと思います。

2023年10月23日月曜日

忘れられない患者さん⑤元ヤクザの脳梗塞片麻痺のオジサン

 ボクが理学療法士として働いていた中で、様々な方に関わらせて頂きました。「忘れられない患者さん」シリーズの第5弾。「元ヤクザの脳梗塞片麻痺のオジサン」



脳梗塞とは…
脳血管障害ということも多いですね。簡単に言うと、脳細胞に栄養を行き渡らせている血管が詰まったりすることで、脳細胞に栄養が行き渡らなくなり脳細胞が壊死(死んでしまうこと)してしまうことです。大きく3つに分類することができます。



脳卒中とは…
脳卒中の中に「脳梗塞」と「脳(内)出血」「クモ膜下出血」があります。いずれも脳の中やそんの周辺で血管が詰まったり裂けたりして脳細胞へ栄養が行き渡らなくなることで脳細胞が壊死することです。


片麻痺とは…
脳卒中によって、左右どちらかの上下肢が麻痺することです。脳卒中による麻痺というのは、右側半分だけとか左側半分だけに出現することがほとんどですが、何度も再発していると、最終的に左右両側とも麻痺を遺す事もあります。
また、「麻痺」というのは「感覚麻痺」と「運動麻痺」に大きく分けることができれ、「感覚麻痺」というのは、例えば痛いとか熱いとか皮膚を通して感じる感覚が麻痺すること、「運動麻痺」というのは手足や体感、唇や舌など自分の思うようの動かせなくなることを指します。



今回、話題に出すのでは70代前半の男性Aさんです。

もともと糖尿病からくる動脈硬化が原因で、10年ほど前に脳梗塞を発症し左片麻痺(左の上下肢の麻痺)を呈してしまいました。数年後、糖尿病性腎症により腎機能の低下があり、維持透析になってしまいました。

その方はもともと右利きでしたので左が麻痺するというのは、一見すると「不幸中の幸い」の様に思われるかもしれませんが、実はそうではないことが多いのです。左片麻痺の場合、ただ「麻痺する」だけではなく「失認・失行」と言う症状が出やすかったり、「構音障害」を伴う場合が多く、実は生活をする上で非常に困難な事が多い麻痺の仕方なのです。一方、右片麻痺の場合は単純な麻痺である事が多い、とボクは感じています。


失認とは…
失認とは、1つまたは複数の感覚で物体を識別する能力が失われる障害です。皮膚で何かを触っていたり温度を感じていたりしてその信号を神経が脳細胞に伝えるのですが、最終的に「それが何なのか」を判断する「認知機能」が低下・消失しているため、御本人は判断ができなくなります。

失行とは…
失行とは、パターンや順序を覚える必要がある作業を行う能力が失われる障害です。例えば、パジャマを見せて、それがどういうものなのかはハッキリと分かるしどういう時に着るものかは理解しているのに、下衣に腕を通してみたり上位のボタンをめちゃくちゃに掛け違えてみたり、と言う行動の障がいです。


構音障害とは…
構音障害とは、言葉を正常にはっきり発音する能力が失われる障害です。例えば、話し方がぎこちなくなる、ブツブツ途切れる、息の音が混じる、不規則になる、不明瞭になる、または単調になることがありますが、患者は言語を正しく理解し、正しく使用できます。


話しを戻しますね。

Aさんは、透析を開始になった頃は、左片麻痺がありながらも、ご自分で起き上がったり車椅子に乗り移ったり、トイレにいって排泄したりなどの自宅内での生活は、ほぼ、自立されていました。ご自宅は持ち家のマンションで、独身ではありましたが内縁の妻さんがいらっしゃり、同居はされていませんでしたが、食事など身の回りの介護はその方が行っていました。

しかし、脳梗塞を再発し救急搬送され、ボクが勤めていた病院へリハビリとサービス調整のために転院されてこられました。


ボクは基本的に初めましての患者さんとご対面する前は、かならずカルテを見て、前医での様子や疾患の状態、合併症や併存疾患の確認、普段服薬しているお薬、家屋状況、家族関係、経済状況など一通り確認した上でご挨拶に行くのですが、入院時の病棟担当看護師さんの記載に「全身に入れ墨あり」との記載がありまして…まあ、ボクも理学療法士として20年以上働いてきましたので、その筋の方を担当したことは何度かあるのですが、小心者のボクは(笑)やや緊張気味で初めましてのご挨拶をしました。

しかし…

もちろん、先にも書きましたが、構音障害があるので、お話しづらいということもあったり、きっとそれが原因で「話すことは最小限にしたい」と言う意識が働いてたのだとも思うのですが、いろいろご質問させていただいても首振りによる応答がほとんどで、喋られても単語でしか言葉を発することがなく、ボクは少し困ってしまいました。

それよりもなによりも

表情がないんです。そう、ないんです。目線も合わせてもらえない、微笑みかけてもニコリともされない、目は伏し目がちで口角は下がりっぱなし。これは、色々と厳しそうだぞ、と覚悟しました。

お体の状態としては、左上下肢の麻痺はかなり重度で、ご自分の意志ではほとんど動かすことができず、皮膚の感覚は若干あるようでしたが、正常よりも鈍い状態でした。寝返りはベッド柵を右手で把持してなんとか自力で可能、起き上がりは困難、そんな状況でしたので、まずは、どんな方法を使ってもいいので起き上がりを自力でできるようになり、ベッドの端に座っていられる、と言うことを目標に理学療法をすすめて行くことをお伝えしました。

ちなみにこの方のご希望は、元のご自宅マンションに戻って生活をしたい、と言うことでした。

ちなみに脳梗塞による運動麻痺は別名「痙縮」と呼ばれます。
「麻痺」と言うと手足の力が入らない、と言うイメージが強いと思うのですが、脳梗塞による痙縮という状態は、力が入りすぎることで関節の動きをコントロールすることが困難になることです。


脳梗塞の運動麻痺を呈している方でこの図のような手足の形をしてる方をご覧になられた事がある方もいらっしゃるかと思います。Aさんの左上下肢は、まさにこのような状態でした。

痙縮の難しいところは、例えば起き上がろうと腹筋に力を入れるだけで、麻痺している側の腕が自然に曲がってきたり、脚がピーンと伸びてしまったりして、それらが邪魔することで起き上がりが難しくなる、みたいな事が日常生活のなかで起こってきます。

Aさんはこの状態が、かなり顕著に出ている状態でした。しかし構音障害はあるものの、失認・失行の症状は見られませんでした。


理学療法としてはベッドサイドで、まずは固くこわばっている左上下肢の関節を柔らかくする運動、力を入れる時に必用のないところに力が入らないようにするための運動学習、起き上がりを介助してベッド端に座り、座ったまま手で柵などを持たずにバランスを取る練習から始めました(起き上がる練習をこの段階で行わないのには理由がありますがここは割愛します)。

いつも言いますように、運動の合間合間には休憩を取るのですがその時に、ボクは患者さんの色んな事を聞きます。もちろん、内容によってはセンシティブなこともあるので、それは患者さんとの信頼関係がどの程度、築けているかを探りながらになるのですが。


初めましての時にボクが感じた「色々と厳しそうだぞ」と言う感覚は、患者さんの「意欲」の問題に起因する事が多くて、やはりご本人が「良くなりたい」「自分でここまでできるようになりたい」と言うお気持ちが大事なのですが、Aさんからはそれを全く感じられなかったのです。

そんなある日、ボクが関わらせてもらうようになって2週間後くらいでしょうか。いつもの様にお部屋へお伺いしご挨拶した後、Aさんは堰を切ったように話しだされました。

「リハビリなんてやっても意味ない」
「別にこのまま家に帰ってもなんとかなる」
「ヘルパーも女もおるから全部やってくれる」
「これ以上構わないでくれ」
などなど…

事実、リハビリの効果としては正直、厳しいところがあってボクは長期戦を覚悟していたところでした。

ボクはまず、Aさんに、Aさんのお気持ちをしっかりとお聞きしないままリハビリを続けてきたことに謝罪をし、ベッドの横にしゃがんでAさんのお話しに耳を傾けることにしました。

ご自身ではこれ以上良くならないと思っているしなりたくないと思っている、なんなら今すぐに死んでも構わない、今までの人生に悔いはない、できれば静かに家で過ごしたい、など正直なお気持ちを吐露されました。

その中でとても記憶に残っているお話しがあります。


Aさんは全身に入れ墨が入っていることはお伝えしたとおりですが、左手の小指と薬指もありませんでした。ご本人が「自分の人生に悔いはない」とおっしゃられてたのには意味があって、御本人はヤクザとして生きていきて、ある程度の地位まで上り詰めたそうです。舎弟がいたり、島を任されたり、刑務所も金沢刑務所に入ったこともある、と。

少し余談ですが、刑務所というのは日本各地にありますが、実はそれぞれ役割があります。例えば、初犯の人が入るところ、何度か受刑した経験した人が入るところ、重い罰を受ける人が入るところ、など。有名なのは網走刑務所ですよね。

その事はボクは以前より知っていたのですが、金沢刑務所がどの様なところなのかは知らず、Aさんにも聞きました。

金沢刑務所というは、何度も犯罪を犯している人や反社会勢力の人が収容される刑務所だということです。


Aさんにとって「金沢刑務所に収容される」というのは、ヤクザとして「箔が付く」ことであり名誉なこと、そうお話しを聞いてボクは理解しました。
そして、ご結婚はされずお子さんもいらっしゃらないのですが、伴侶も得てそして病気になって。

「やりたいことをやりたいようにやりたいだけやって病気になったのだからこれ以上は何も望まない」

そんなニュアンスでしょうか。


おそらく1時間くらいお話しを聞いていたと思います。

ただ、理学療法士としてのボクは、とても苦しい立場になりました。

正直、御本人の気持ちもよく分かるし、「これ以上何も望まない」と思っている人に「これ以上を望もうよ」と押し付けるのは、理学療法士としてのエゴだとも思う。けれど実際問題、どんなに介護サービスを使ったとしても、この現状でご自宅での生活はムリ。そことどう折り合いをつけていくか、まずはボク自身の気持ちや理学療法としての方向性を決めなければなりません。

とっても悩ましい。本当に悩ましい。

以前、このblogでも書かしていただきましたが、ボクは多分、理学療法士として失格なんだと思います。または、こういうボクの中での葛藤が生まれた時の対処方法が下手くそで、どっちつかずというか、何を優先すべきかを見失ってしまう。




実は、このお話し、これで終わりです。

この後ボクは、体調を崩しそのままこの職場を退職してしまったからです。

そしてAさんのその後も、知るよしもありません。

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